廃炉に向けた作業が進む福島第一原発。5月22日の報道公開には宮城県と岩手県のテレビ・新聞・通信社5社が参加しました。東京電力の招きによるもので、処理水の関連設備や燃料デブリの取り出しなど廃炉に向けた作業の現状を近い県のメディアにも知ってもらおうという趣旨です。初めに訪れたのは事故を起こした1号機から4号機の原子炉建屋が見渡せる場所。
記者リポート
「私のすぐ後ろには、水素爆発を起こした1号機が確認できます。現在福島第一原発では敷地内のおよそ96パーセントで特殊な防護服がいらずに作業することができます。こちらからも一般的な作業服で皆さん作業している様子が確認できます」
事故当時は敷地内全てで防護服と全面マスクが必要でした。現在は除染が進み、ほとんどのエリアで防護服は不要に。東京電力は作業員のひと月あたりの平均被ばく線量は今年3月の暫定値で「0.25ミリシーベルト」と胃のX線検診1回あたりの4分の1ほどだと説明しています。
現在、働く作業員はおよそ4500人。このうち7割が福島県内の人だといいます。一方、廃炉に向け最も大きな山場となるのが燃料デブリの取り出し。今回の事故によって溶けた燃料などが固まったもので、1号機から3号機あわせておよそ880トンあると推定されています。
このうち2号機では遠隔操作ロボットを使った試験的な取り出しを今年10月までに始める予定ですが、これまでに3回延期され、いまだ全く取り出すことができていません。燃料デブリだけでなく、1号機と2号機には使用済み核燃料もあわせて1007体全てが残されたままです。スケジュールの遅れについて東京電力は安全優先を強調しています。
東京電力ホールディングス 高原憲一リスクコミュニケーター
「廃炉を進めていくにあたって順調に進められているところもあれば、やはり戻ってしまうこともあります。ただ一番重要なのは安全最優先だと思っているので、まず安全をしっかり担保したうえで、先に進めていく考えに変わりはない」
福島テレビ 矢崎佑太郎アナウンサー(2023年8月)
「福島第一原発の上空です。先ほど午後1時、処理水の海洋放出が始まりました。沖合1キロの海底から薄められた処理水が海に流されていきます」
去年8月から始まった処理水の放出。トリチウムなどの放射性物質を含む処理水を国の基準を下回る濃度まで薄めたうえで海へ放出するもので、5月17日からは通算6回目の放出を行っています。
記者リポート
「こちら高さ15メートルの巨大なタンクには、アルプス処理水が1基あたり1000トン入っています。こうした巨大なタンクが敷地内に1000基以上設置されています」
処理水は、これまでにおよそ2万トンが海に放出されましたが、現在もおよそ132万トンが残されています。
処理水の海洋放出に関する風評被害への対策も行われています。東京電力は2年前から敷地内で通常の海水とトリチウムを含む処理水それぞれでヒラメやアワビを飼育しその結果をホームページで公表しています。
これまでに成育状況に違いは見られず、また処理水で飼育したヒラメの体内には一時的にトリチウムが蓄積されるものの、海水のトリチウム濃度以上にはならず、通常の海水へ戻すと、ヒラメ体内のトリチウムが排出されることがわかったということです。
事故からおよそ13年2カ月。東京電力は廃炉完了の時期を2041年から2051年としています。
取材した記者:
ひとたび大きな事故がおこると何十年にもわたって影響が出てしまうと改めて感じた。原発周辺の街の様子も見てきました。
壁や屋根が雑草や木に飲み込まれるように覆われてしまっている家、そして店舗の駐車場も舗装されたアスファルトの隙間から大人の背丈を超える雑草が生えていたりとここから人の生活が消えて13年間経ったということをまざまざと見せつけられたという感じでした。
福島県には今も居住できない帰還困難区域が、大熊町や双葉町など7市町村のおよそ309平方キロメートルある。県内外への避難者はおよそ26000人に上り、その中には13年経って避難先で定住する人も少なくない。改めて事故の影響は本当に長きにわたると感じた。
一方、県内では、女川原子力発電所の再稼働が今年9月に予定されています。事故が発生した際の避難道路の確保など課題も残されています。再稼働を控える原発を抱える宮城県民として福島の事例を他人事とせず一歩間違えれば自分たちもこうなる可能性があるんだと、当事者意識や関心を持つことが大切だと改めて思いました。
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